身体障害者補助犬法が施行され、介助犬が法律の中に明確に位置づけられてから20年以上が経ちました。
ほぼ四半世紀です。
この20年余りで、私たちの暮らしも、障害のある方を取り巻く社会環境も大きく変化しました。これだけ社会が変われば、介助犬に求められる役割や、その存在価値も変化して当然なのではないでしょうか。
身体障害者補助犬法が誕生した当初、介助犬について注目されたのは、何といっても「介助動作」でした。
落とした物を拾う。
ドアを開ける。
必要な物を持ってくる。
衣服の着脱を手伝う。
「こんなことまで犬ができるのか」と、多くの方が驚いたと思います。
介助犬という存在を初めて社会に知っていただくためには、目に見える介助動作をお見せすることが最も分かりやすい方法でした。
そのため育成団体も、より高度な介助動作を教え、さまざまな技術を紹介してきました。
もちろん、介助動作は今でも介助犬の大切な役割です。
しかし、その一方で私たちは長年の活動を通じて、一つのことを感じるようになりました。
「介助犬は、いろいろなことができなければならない」
そんなイメージを、私たち育成する側が強くしすぎてしまったのではないか、ということです。
高度な介助動作ばかりが紹介されれば、介助犬を希望する方も、
「自分はそこまでしてもらう必要はない」
「もっと重い障害の人が使うものなのではないか」
「自分には介助犬を持つ資格がないのではないか」
と考えてしまいます。
介助犬を育成する側にも、「これだけの介助動作ができなければ介助犬とはいえない」という意識が生まれます。
結果として、介助犬という存在そのもののハードルを高くしてしまった面があったのではないでしょうか。
法律ができて20年以上が経った現在でも、日本全国で実働している介助犬は、わずか数十頭にとどまっています。
この現実を、私たち育成に携わる側も改めて考えなければならないと思っています。
近年では、セラピードッグや動物介在活動という言葉も、以前よりずっと知られるようになりました。
犬と暮らした経験のある方なら、犬がそばにいるだけで気持ちが落ち着いたり、自然と笑顔になったりした経験があるかもしれません。
私たちが長年、障害のある方と介助犬との生活に関わってきて感じることがあります。
それは、介助犬に求められているものは、必ずしも技術的な介助だけではないということです。
「この子がいるから外へ出てみよう」
「この子と一緒なら、もう少し遠くまで行けるかもしれない」
「一人では不安だけれど、この子がいるから大丈夫」
そんな気持ちの変化も、介助犬が生み出す大きな力です。
介助犬の目的として「自立支援」という言葉が使われます。
しかし、自立とは何でしょうか。
犬に物を拾ってもらうことだけが自立支援ではないはずです。
心が落ち着く。
外へ出てみようと思う。
人と会ってみようと思う。
自分で何かをやってみようという気持ちになる。
そして、少しずつ自分の生活に自信を取り戻していく。
介助犬がそばにいることで、その人自身の行動が変わるのであれば、それも立派な自立支援ではないでしょうか。
私たちは、介助犬が人の代わりに何でもやってしまうことを目指しているわけではありません。
むしろ、その人が持っている力を引き出し、もう一度自分から行動するきっかけをつくる。
そこにも介助犬の大きな価値があると考えています。
これからの介助犬は、「あれもできる、これもできる」と、たくさんの介助動作を求めるだけではなくてもよいのではないでしょうか。
必要な介助動作は、その人によって違います。
一つの動作が生活を大きく変える人もいれば、介助犬と一緒に外出できること自体が大きな一歩になる人もいます。
だから私たちは、
「そばにいてくれるだけでも、その人の人生に価値を生み出す介助犬」
という考え方が、もっと社会に認められてもよいと思っています。
介助犬に人を合わせるのではなく、その人の生活に合った介助犬のあり方を一緒に考える。
介助犬の役割をもっと柔軟に考えることができれば、これまで介助犬を選択肢として考えていなかった方にも、新しい可能性が生まれるかもしれません。
そして、ここで重要になるのが「介助犬導入相談専門員」です。
これまで介助犬の世界は、育成団体や訓練士など、ごく限られた人たちが中心となってきました。
介助犬を必要としている人がいても、
「どこに相談すればいいのか」
「自分は対象になるのか」
「介助犬との生活とはどんなものなのか」
こうした最初の相談に対応できる人が、地域にほとんどいません。
介助犬を増やしていくためには、犬を育てる人だけを増やせばよいわけではありません。
介助犬を必要としている人と、介助犬をつなぐ人を増やすことも必要です。
介助犬導入相談専門員には、その役割を担ってもらいたいと考えています。
介助犬についての基礎知識や導入までの流れを学ぶことで、これまで介助犬育成に直接関係していなかった方にも、介助犬を必要とする人を支える入口に立っていただく。
閉じられていた介助犬の世界を、もっと地域へ、もっと社会へ開いていく。
そうすることで、今まで私たちだけでは出会うことのできなかった介助犬希望者と出会える可能性も広がります。
介助犬を必要とする人を見つける人。
相談を受ける人。
育成団体へつなぐ人。
そして、介助犬を育成する人。
多くの人がそれぞれの立場から関わることができれば、介助犬を届けられる可能性はもっと大きくなるはずです。
介助犬のことを知るところからで構いません。
ぜひ「介助犬導入相談専門員講座」でその基礎を学び、私たちと一緒に、介助犬という選択肢を必要としている人へ届けてください。
介助犬を「特別な人だけのもの」から、「必要な人が選べるもの」へ。
それが、これからの介助犬に必要な変化だと私たちは考えています。